格闘技の中継における日米の違いは、まずフォーマットで言うと放送席の人数です。
韓国の実況・解説でも触れましたが、アメリカでは韓国同様、アナウンサーとコメンテーターの二人しかいません。
そして私の記憶の隅から隅まで探しても放送席で女性が喋った記憶はありません。
これは、メジャーな大会の実況席には必ず一人は女性タレントが座っている日本との大きな違いです。
そして、この女性タレント起用に関係あることですが、アメリカでは競技と選手に関する知識がない人間を座らせることはまず、ありません。
私は小池栄子は物凄く認めています。藤原紀香もいいのですが、あの人はK-1に対する、ほとばしる愛情はダイレクトに伝わってくるのですが、その愛情と熱意のスパーク以上の、試合内容に関する具体的なことを喋った記憶が私にはありません(笑)。
「アーツ、行け!」とか「バンナ、頑張れ!」とか「ベルちゃ〜ん!」とかいう「紀香シャウト」は彼女のK-1者としての不動の立ち位置が認められているからこそ、許されるのです(笑)。
かたや、小池栄子は専門的な面で高田や高阪より出しゃばらないよう気を使いながら、質問するカタチで技術的なことや選手のバックグラウンドをプロの言葉で導き出していました。
そして、私が小池栄子という人を格闘技通として認めた瞬間というのはPRIDE後期のマリオ・スペーヒーの試合中のコメントを聞いた時です。
我々、通人のファンが「スペーヒー、スタミナねえから、こんなに汗かいちゃって、もう、この時点で半分スタミナ使ってんじゃねえの」と言うところを小池栄子は、
「ここ数試合のマリオ選手の汗のかき方が気になりますね」
と言ってのけたのです。
試合開始、間もない時点で、かなり汗をかいている。スタミナに不安がありそうだ。しかも、この試合に限ったことじゃない。
これ、なかなか言えないよ!
小池栄子も藤原紀香も言葉の節々から、点で見てるのではなく、線で観てきているのが感じられるのです。
要は、「お前、結局、大晦日しか、格闘技、観てねえだろ」と言いたくなるタレント・ゲスト達とは格が違うということ。
若い女性タレントをお飾りで放送席に座らせて、選手のトランクスのデザインをしましたとかいう茶番は早く止めてくれよ(笑)。
日本に比べれば、アメリカの放送席は極端にシンプルで、しかもメンツに変化はありません。
UFCなら、実況がMike Goldbergで、解説がJoe Roganの不動のコンビが何年も続いており、かつてPRIDEのアメリカ版PPVの実況をバス・ルッテンかフランク・トリッグとのコンビで務めていたMauro Ranalloというカナダ人が現在、StrikeForceの実況を担当しています。
このシンプルで無駄がないのはいいのですが、日本の放送席に「招かれて然るべき」特別ゲストが座った時の華やかさと奥行きとが派生することはありません。大相撲の向こう正面にデーモン小暮がいる場合を例にとれば分かりやすいでしょう。
リングス時代の糸井重里、つのだ★ひろ、浅草キッド、修斗やK-1の関根勤などの皆さんは番組パッケージの重要な歯車の一つとして楽しませてくれました。
さて、もうひとつ、日米の実況・解説のかなり大きな違いがあります。
まず単純に言うと、日本と違ってアメリカの実況席は自分の意見を言う。これに尽きる。そして、これに付随して無理に盛り上げる努力をしない。
一番、多いのは試合がフルラウンドで終了し、判定を待つ間で、アメリカだと、よっぽどの僅差以外、どっちが勝ったと思うかを言ってしまいます。
そして「この判定には賛成できない」とか「今のストップのタイミングには賛成できない」とか、ごく普通に喋ります。
納得の行かない判定があると、勝利者インタビューで、「判定を不服とするブーイングが巻き起こってますが、どう思いますか?」と訊いたりします。
日本だと、どう考えても3−0の判定で決まりだろうという一方的な試合でもK-1の谷川貞治は「難しい判定ですねえ」と保険を打っておきます。何度、聞いたか、分からない(笑)。
K-1 MAXの隆盛の立役者はもちろん魔裟斗ですが、何年か前に姿を消してしまった解説の畑山隆則の功績も大きいと私は思います。少なくとも私は畑山の解説はかなり好きでした。
まず、全然、微妙じゃない判定を待ってる間、お茶を濁すことがなかった。
イベント・プロデューサーの立場で、出来ればブアカーオに勝ち上がってほしい谷川が「難しい判定ですねえ」と言ってる横で「カラコダじゃないですか」とサラッと言っちゃうところとか最高だった。
それに畑山は自分がボクシングの世界王者であったにも関わらず、キックボクサーのパンチを「上から目線」で語ることが絶対になかった。これはなかなか出来ないことだと思います。
さらに畑山は「やっぱ、世界を極めたヤツは言うことが違うわ」と言いたくなる専門家の目を具体的に披露してくれていました。
ひとつ、忘れられないのは2002年の第一回のMAX世界大会決勝、アルバート・クラウス対ガオラン・カウイチット戦です。
この試合に至るまでの両者のダメージ差は明確です。一回戦で中国のジャン・ジャポーを完封し、準決勝で小比類巻を一蹴したガオランに比べ、一回戦でシェイン・チャップマン、準決勝で魔裟斗と計6ラウンド、打ち合ってきたクラウスは顔面ボコボコで決勝のガオラン戦入場の時点で両目が大きく腫れていました。
ガオラン絶対有利の試合はガオランの圧勝→優勝→初代王者、のペースで進みますが、解説の畑山が、
「ガオラン選手、顎が弱い気がするんですよね」
と言った次の瞬間にクラウスの右がガオランの顎を打ち抜いて逆転KO勝ち!
もうひとつ、1998年の私の極私的年間ベストバウト、PRIDE 4におけるアレクサンダー大塚対マルコ・ファスの一戦。
解説者は二人いたのですが、「格闘技通信」編集長、本多誠の口調からは、アレクが勝てる訳がない、という固定観念がビンビンに伝わってきます。
しかし、もう一人の中井祐樹先生はアレクとファスの天と地ほどもある実績の差を全く意識しておらず、とことん中立に淡々と試合を解説します。
あの試合で私の中井先生に対する尊敬の念はワンランク、上がりました。
最後に一つ、これも大きな違いと言ってしまっていいと思うのですが、アメリカでは放送席の人間のお互いの呼び方は常にファーストネーム呼び捨てです。
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