総合格闘技の歴史を辿っていく際に、絶対に外すことの出来ない人物数名の中の筆頭が達人・エリオ・グレイシーです。
昨年一月に95歳で亡くなったエリオはグレイシー柔術の始祖であり、対格差のある相手との対決を想定した闘い方を歴史上、最も練り込んだ人物かもしれません。
フィラデルフィアのTeam Maxerciseでは練習開始にあたり、師範と門下が向かい合って礼をし、次に師範と門下が揃って壁のエリオの写真に礼をします。
「俳優のデビュー作」で三船敏郎のことを書いた時も気合いが入りましたが、マスター・エリオのことを書くとなると身が引き締まります。
マクササイズではメインマットの柔術場にはエリオの写真が掲げられており、サブマットの柔道場には嘉納治五郎の写真が掲げられています。
柔道における嘉納治五郎と同じ立場にブラジリアン柔術におけるエリオ・グレイシーは君臨していると言えば、格闘技に明るくない人にも分かりやすいかと思います。
彼の闘いの理念はグラウンド状態では上になった方が有利ではあるけど、自分のように軽い人間は上になることが困難なので、それならば下から極めれば良い、というもの。
グレイシー一族のクラシックなヴァーリ・トゥード(なんでもあり)の闘い方は相手の膝の少し上を狙った関節蹴りから、両腕で顔面をガードしながら蹴り足をそのまま前方内側に落として距離を潰し、胴タックル。前頭部で相手の胸を押しつつ、さば折りでテイクダウン。
さば折りでテイクダウンする際に内側に着地させた足を外に抜けば、そのままマウント・ポジションになる訳ですが、常に教科書通りに実戦が進む訳ではないので逆に上を取られることもある。相手が自分より大きければ当然ながら上を取られる可能性は高くなります。
ならば両足できっちりガードを取って、相手のパンチが伸びない距離に引きつける。そして下からあらゆる極めと絞めを狙えば良い。
常に無差別の闘いを想定していたという面でエリオが目指し確立したのはスポーツではなく武道であると言えるでしょう。
相手と公平な状態から競い合うのがスポーツ。完全に公平な状態での闘いは現実にはあり得ないから、ならば、どう勝つか、と考えるのが武道。
エリオの師匠はコンデ・コマという日系ブラジル人で、元々は前田光世という青森県弘前市出身の日本人です。
彼は嘉納治五郎直系の講道館柔道四段の時に渡米し、それ以降、164センチ/70キロという、今でいったらバンタムまで落とせるライト級の小兵でありながら、アメリカ、メキシコ、ヨーロッパ諸国を己の体一つで異種格闘技戦をやりまくりながら周り、日本柔道の威厳を示して普及に尽くした人物です。
もちろん契約体重などというシロモノは存在せず、100キロ以上の巨漢との対決もザラ。
特にアメリカ転戦中は1900年代初頭という時代に自分の首に1000ドルもの賞金を懸け、大金に釣られて途切れることのないボクサーやレスラーなどの挑戦者相手に柔道着着用の果たし合いで1000勝以上無敗の結果を残したと言われています。
ヒクソン・グレイシーの400戦以上無敗の軽く倍以上ということになります。
この前田光世が身一つの実戦武者修行の末に辿り着いて帰化したのがブラジル。
ここで前田光世に息子達に教えてほしいと依頼するのがガスタオン・グレイシーという人でエリオの父。
ガスタオンは治安の悪いブラジルの地で息子達が生き抜いていけるよう、前田師範に、「相手を殺傷せずに制御し、己の身を護る」柔術の指導を依頼します。
嘉納治五郎の定義では、
「無手或は短き武器をもって、無手或は武器を持って居る敵を攻撃し、または防御するの術」
が柔術です。
広義でいえば、映画"The Last Samurai"でトム・クルーズが村の侍達と励む稽古も柔術と言えます。
嘉納治五郎は柔術の技術体系を競技として整備し、明治15年に柔道と名付けて普及に努めた訳で、柔道も柔術も元々は同じものといって差し支えありません。
江戸時代にも柔道という言葉は存在しましたが、我々が一般的に柔道と呼ぶ競技が全柔連、オリンピックと直結する講道館柔道である限りは柔道という言葉は嘉納治五郎が創始したものであると言えます。
元々、嘉納治五郎は、
「自身の虚弱な体質から強力の者に負けていたことを悔しく思い非力な者でも強力なものに勝てるという柔術入門を果たした」
とされており、これは現代風に言い換えると、「体の小さなイジメられっ子が悔しくて、小さくとも強い者に勝てる柔術を習い始めた」となります。
これはまさしくエリオのグレイシー柔術に受け継がれている理念と言えましょう。
この項、続く。

グレイシー柔術、コンデ・コマ、知ってます!!
うちに、「コンデ・コマ」というマンガが全巻揃っているのです!
息子がお腹にいた頃、読んでいました。
なぜかっつーと、漫画の「コンデ・コマ」の原作者、鍋田吉郎さんは、うちの夫の中学・高校時代の後輩で、彼が全巻まとめて、プレゼントしてくださったんです。「コンデ・コマ」は、夫以上に私の方がはまって、熟読していました。(笑)けっこう恐い場面もたくさんあったけど…
続き、楽しみです。
投稿情報: はちこ | 2010/04/12 04:57
それは凄い。しかも、ぼぼるパパよりハマったとは(笑)。
しかし、胎教には良さそうじゃありませんね(笑)。
私は随分前に第一巻だけ読みました。
銀幕腕十字は最新の試合結果は丸三日、経たないと書かない方針なので、どちらが勝ったかは書きませんが、先週土曜日にアブダビ初開催のUFCでマット・ヒューズと闘ったヘンゾ・グレイシーはエリオの甥の息子です。
グレイシー一族の家系図を全て記憶/把握している格闘技関係者は、ほっとんど、いないと思います(笑)。
投稿情報: たしん | 2010/04/12 06:03