私が敬愛してやまぬ山田洋次監督の最新作、「おとうと」を観てきました。
今作は山田監督の実に十年ぶりの現代劇ということで、ということは「十五才 学校Ⅳ」から十年も経ったのか!ということは大船撮影所が閉まってから十年も経ったのか!と驚愕の思いです。
主役オーディションで金井勇太がデビューした「学校Ⅳ」の後、山田監督はこの十年間で、
「たそがれ清兵衛」(2002)
「隠し剣 鬼の爪」(2004)
「武士の一分」(2006)
「母べえ」(2008)
とコンスタントに撮ってきて今回の「おとうと」。
高齢で撮り続けている映画監督は他にもいますが、愚にもつかない「自称芸術」を垂れ流しにしている連中とは違い、山田監督はキッチリと名作を紡いでいます。
78歳での想像力、創作意欲、そしてスタミナは凡百の人間が四の五の称賛できるレベルのものではないでしょう。
今作は昭和35年の市川崑作品の「おとうと」に対するオマージュで、山田監督のオリジナルに対するリスペクトは鍋焼きうどんのシーンその他に見てとれます。
しかし、年齢の設定はかなり異なります。
山田監督の「おとうと」の弟は笑福亭鶴瓶で姉は吉永小百合ですが、市川崑の「おとうと」の姉弟はともに十代です。
あたかも石原慎太郎の著作、「弟」で書かれている十代の石原裕次郎のごとき放蕩の日々を送る弟に手を焼きながらも支える17歳の女学生の姉は岸恵子です。
私は「17歳はないんじゃないの」と強烈に思った覚えがあり、改めてWikiってみたら、当時の岸恵子は28歳でした。
作品紹介に書かれていることなのでネタバレにはなりませんが、物語は吉永小百合の一人娘の蒼井優の結婚式を音信不通だった鶴瓶が泥酔して木っ端微塵の台無しにするところから始まります。
「男はつらいよ」のファンならば昭和44年公開の第一作で、寅さんが妹、さくらの見合いを酔っ払って台無しにしたところにフラッシュバックします。
あの時の寅さんも相当、タチが悪く、寅さんの傍若無人ぶりに愛想をつかした見合い相手の青年の母親が席を立った時、
「ウ☆コかい?出物・腫れ物、ところ選ばずってなあ。まあ、しょうがねえやな。ゆっくり、やって来なよ」
などという常人には作文し得ない台詞まで飛び出しましたが、「おとうと」の鶴瓶の場合、結婚式で人数も多いので三重、四重に輪をかけたタチの悪さ(笑)。
とにかく、見ていて落ち着かないこと、この上ない披露宴です(笑)。
言ってみれば寅さんにとってのさくらが妹ではなく姉ちゃんだったら、という側面を強く持った作品です。
山田洋次監督の映画というのは最近の上記4本と今回の「おとうと」を合わせた5作品すべて、
「希望はあるけど基本的につらい」映画です。
それはそれでいいのですが山田監督とて人間ですから永久に撮り続けられる訳ではありません。
山田洋次を敬愛するファンの一人としては、この先、一本か二本でも、「バカだね〜」とか「しょうがねえな、おい」という、カラカラした笑いに満ちた作品も見せてほしいと思います。

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