私はアメリカでも日本でも、片道どのぐらい時間かかんの?と頻繁に訊かれますが、常に
「フィラデルフィアの家のフロント・ドアから宇都宮の実家の玄関まで、大体、24時間弱」
と答えています。
フィラデルフィアの空港は巨大だし、日本人も、そこそこ、いるので、成田への直通便がそろそろ登場してもいいだろうと思うのですが、ありません。
一番、大きな理由は、ニューヨークとワシントンDCに近すぎることでしょう。
それでも、フィラデルフィアの家から空港まで車で15分、成田から宇都宮駅前までの直通バスが2時間半、という数字は、かなり恵まれているほうだと思います。
毎回、成田に着くと、入国審査に向かう通路で、国内の乗り継ぎがないのは、ありがたいことだ、と思います。
一度、韓国のソウル経由で成田という嘘のようなパターンがあり、その時はソウルでの離陸がかなり遅れたので、成田に着いた時には宇都宮行きのバスが終わってしまってました。
しかも、スカイライナーも成田エクスプレスも終わっていて、京成のローカルで都内に出て友人宅に泊まったので長い長い旅でした。
私が今までに経験した一番、長い片道の旅程は、飛行機に乗ってる時間だけで、フィラデルフィアー(1時間ちょい)→ニューヨークー(約7時間)→ロンドンー(約9時間)→ボンベイ、ですが、昔の人が長旅で経験した苦労に比べれば屁でもありません。
小津安次郎監督の代表作、「東京物語」の冒頭で老夫婦が広島の尾道から東京に出て来るシーンは、まさしく"Odyssey"の雰囲気に満ちています。
あの印象が私の中に強く残っているので、横浜出身の友人とお付き合いしている広島出身の女性に「のぞみを使えば広島から新横浜まで2時間45分」と聞いた時は心から驚きました。しかし、今、調べてみたら、さすがにそこまで短時間ではないようなので、私の聞き間違いだったんだと思います。
中居正広主演の「私は貝になりたい」の中でも、奥さん役の仲間由紀恵が東京に夫を訪ねるシーンがあります。
四国の田舎でバスに乗って電車の駅まで行き、堅い木の椅子に息子と揺られながら車掌さんに到着はいつ頃かを尋ねると、
「巣鴨に着くのが大体、明日の朝」と言われます。
また山田洋次監督の「家族」では、大阪万博の年に、一つの家族が長崎県の小さな島から北海道の開拓村まで電車で引っ越しをします。
しかし、余裕のない旅程の過酷さ故に、愛する家族の死にすら直面することになります。
極めつけは黒澤明監督の「生きものの記録」。
これは三船敏郎が何と志村喬よりも年上の老け役をやっている昭和30年の映画ですが、この中にブラジルに移民した日本人が出てきます。
この役は、これでもか!ってほどに日焼けメイクを施した東野英治郎(昭和の後半の水戸黄門の黄門様)がやっているのですが、日本に一時帰国した後にブラジルに帰っていく彼を見送った人達が羽田の展望台から飛び行く飛行機を眺めつつ言う台詞が凄い。
「まったく便利になったもんだよ。明後日には、もうブラジルだ」。
現UFC世界ライトヘビー級王者として君臨するリョート・マチダの父、町田嘉三・七段は「生きものの記録」から13年後の昭和43年、飛行機でのブラジル行きが「あり」だった時代に船で移住しました。
日本を出てから、ハワイ、アルゼンチン、ウルグアイ、リオデジャネイロ、サンパウロ経由でトータル40日かかったそうです。
しかも海が荒れて最初の15日間は吐きっぱなしだったとのこと。

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