田中邦衛に八つ当たりは似合います。
通常、やたらと叫ぶ演技を目の当たりにすると「人間は、こんなに頻繁に叫びやしねえよ」とシラケることの多い私ですが、田中邦衛の間断なき叫びには不自然さを感じません。圧倒的な説得力です。
そして、ただ叫ぶだけでなしに、山田洋次監督の一本目の「学校」で見せた100%八つ当たりのシャウトが最高でした。
田中邦衛は、あまりにも有名なテレビの「北の国から」の黒板五郎役で「ちょっと可哀想じゃねえの」と思わずにいられない八つ当たりを割と頻繁に少年時代の純にしていましたが、一度、「娘を持つ父ならば、しょうがなし」の八つ当たりを富良野の喫茶店でしています。
蛍が看護学校を出て地元の病院に就職する日を心待ちにしている五郎さんは、蛍が看護学校卒業後に家を出て遠方の病院で働く決意をしていることを蛍本人とボーイフレンドの緒方直人の口から聞かされます。
ショックを受けた五郎さんは無言で立ち上がり、若者グループが見ているテレビに歩いて行って無言で消してしまいます(笑)。
私、あのシーン、好きです。
また、正当な理由があるシャウトなので八つ当たりではありませんが、食堂での
「子供がまだ食ってるでしょうが!」も最高です。
あれは、早く店じまいしたくてしょうがない、超、感じの悪いオバハンが、純と蛍がまだ食べている途中のラーメンのドンブリを下げようとした時に五郎さんが発したシャウトですが、オバハンが「もう、閉めますから」とプレッシャーをかけている間、店内で煙草を吸ってるだけでも重罪です。
さて、なんと言っても最高なのは「学校」で、夜間中学のクラスメートのオモニがやってる焼肉店でのシャウト。
田中邦衛の役はゴミ収集を生業とするオジさんですが、文盲なので運転免許を持っておらず、リヤカーで仕事しています。
ある日、町中で、たまたま見かけた若い医者に「あんたみたいな頭のいい人だったら分かると思うから訊くけど、俺みたいに字が読めない人間が免許とる方法ってあるかい?」と尋ねます。
そして若い医師に、まず読み書きを学ぶことを勧められ、実際に夜間中学に連れて行ってもらって主演・西田敏行のクラスに編入の運びとなります。
さて、田中邦衛は西田敏行の同僚の竹下景子(北の国からの義理の妹)に好意をよせ、習い立ての字で悪戦苦闘しながら定規まで使って葉書に、いわゆるラブレターを書きます。
困った竹下景子は、黒ちゃん(西田敏行)に相談し、黒ちゃんは田中邦衛同様、一生懸命に読み書きを勉強している在日コリアンのオバちゃんが経営している焼き肉店で一杯やりながら説得しようと試みます。
小上がりのテーブルを挟んで黒ちゃんが鞄から取り出した葉書を見て、最初、田中邦衛は、何日もかけて苦労して初めて書いた手紙が、ちゃんと竹下景子の元に届いたという事実を物凄く喜びます。
しかし当然、「おい、これ、何で黒ちゃんが持ってんだ?」となり、
「てめえら、グルんなって、俺を馬鹿にしやがって」という方向に突っ走ります。
そして、奥の座敷で賑やかにカラオケで盛り上がってるグループに対し、喉が裂けんばかりの大声で、
「うーるせえー! てめえら、カラオケ、やめろおー!」
と叫びます。あのシャウトは最高だった。

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